正しい風邪の治し方?


            はっくしゅんっ!
            思わず俺は、そのくしゃみをしたヤツを見ちまった。
            くしゅっ!
            なんとなく可愛らしいとも言えるようなくしゃみをそいつは連発している。
            「な…なんですかぁ…」
            そう言ってうろたえる様子がいつもと違う気がする。
            「もしかして、八戒…風邪引いたのか?」
            心配そうに覗き込んでいる悟空に
            「大丈夫ですよ。」
            と微笑みかける八戒。
            「自分で自己管理もできないなんてな…」
            呆れたように三蔵は言い放った。
            さっすが三蔵サマ。 言うことがキツイねー…
            「いえ、だから大丈夫ですって…」
            八戒はそう言い訳するものの、言ったそばから
            くしゅん!
            とくしゃみをしている。
            それじゃ、説得力も何もあったモンじゃねェよ…
            よく見てみれば、ほんのり上気したような顔をしている。
            「でも、顔赤いぜ?」
            もっとよく見ようと八戒の顔を覗き込む。
            「え…?」
            うろたえたように赤い顔をさらに赤くして目を逸らすヤツの額に、俺は自分の額をあわせた。
            いつもと比べて、熱い。
            「やっぱ、熱あンじゃん。」
            そう言って俺はとりあえず顔を離した。
            ちょっともったいなかったような気もするけどな。
            「えぇ〜!? 八戒、大丈夫か?」
            バカ猿が大きな声で訊いている。
            「寝てろ。」
            と三蔵に短く言われて、八戒は申し訳なさそうに寝室へと消えていった。
            「鬼の霍乱…ってか?」
            八戒が風邪をひくなんて本当に珍しい。
            「あとで俺、何か持っていってやろ〜っと。」
            何がいいかな…?と真剣に考え込んでいるバカ猿に
            「バカか、猿。 こういうときくらい、ゆっくり休ませてやれよ、ばぁか。」
            と一言、言ってやった。
            「バカって言うな、このエロ河童!」
            「バカにバカって言って、何が悪ィンだよ?」
            「テメェに言われると、もンのすごく腹が立つんだよっ!」
            「へっ、バカ、バカ、ばぁ〜っか。」
            「うるせっ、赤ゴキブリでエロ河童のくせに〜!!」
            「…うるせぇ。」
            という一言とともに、三蔵からハリセンが飛んできたのは仕方ないのかもしれない…

            ちょこっと心配になって、俺は寝室に様子を見に行った。
            八戒は熱で顔を赤くしながら眠っていた。
            なんとなく苦しそうに見えて、俺はタオルを水に浸し、軽く絞ってその額に乗せてやる。
            「ん…」
            という声とともに、うっすらと碧の瞳が開いた。
            「悪ィ、起こしちまったか?」
            素直にそう、謝った。
            「コレ…あなたがしてくれたんですか?」
            と訊かれて、なんとなく照れくささを感じつつも
            「あぁ、なんかお前、熱で辛そうだったからな。」
            と答えた。
            しっかり三蔵がするわけねぇし、悟空にやらせたら面倒が増えるし…とイイワケ付きで。
            「すみません。」
            と微笑みながら謝る八戒が、どことなく儚く見えて
            「いーから早く治せよな。」
            と言って俺はそっぽを向いてしまった。
            直視していられなかったのだ。
            そんな俺にくすりと笑った八戒は
            「ありがとうございます。」
            と礼を言って、また眠りへと落ちていったようだった。

            どうやらうとうとと眠っちまったらしい。
            「あ…」
            というその声で目が覚めた。
            「…ぁ…起きたか?」
            まだボケている頭でそう訊いた。
            「はい…すみません、悟浄。」
            申し訳なさそうに詫びる八戒に、俺は重ねて訊いた。
            「喉、渇いてねェか?」
            一日ほとんど眠っていたようなモンだ。
            多分、ほとんど水分摂取もしてねぇンじゃねぇか?
            「オラ、水。」
            グラスに水を入れて、八戒のほうへと差し出した。
            俺から渡されたグラスをそいつは両手で包み込むようにして、唇に当てた。
            小さな子どもがするような仕草。
            一瞬、可愛らしいと思ってしまった自分にオイオイ…と苦笑した。
            コクコクと喉仏が上下して…飲み干したらしい。
            グラスを下ろし、ぺろりと赤い舌が唇を舐めた。
            きっと無意識なのだろう。
            だが、俺にはそれがすごく扇情的に見えて…
            スッと俺は顔を寄せた。
            コツンと額と額が重なって…
            そのまま、俺はそいつの唇に自分の唇を重ね合わせた。
            見開かれる碧の瞳。
            一瞬の間をおいて、俺は離れた。
            「…ご…じょぉっ!」
            風邪がうつったらどうするんですか!と睨んでくる八戒に
            「風邪ってうつすと治るらしいぜ?」
            と笑った。
            水を替えるために、俺は部屋を後にする。
            パタン…と閉めたドアにもたれて、俺はひっそりと呟いた。
            「テメェが風邪引いてるくらいだったら…俺がもらってやるよ。」
            まだ感触の残る唇を指でスッとなぞり、俺は水道へと向かったのだった。


          ■ 夏樹葉の戯言(あとがき) ■
「正しい風邪の〜」八戒編の別視点ヴァージョンです。
結局ラブラブなんだよな…
何となく、夏樹葉の中で八戒編だけでは消化不良気味だったので、
こんなのができました。



モドル

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