昨日に引き続き、今日も快晴。 先日の雨で桜は散ってしまい、柔らかな緑が目に眩しい。 明るい陽光に目を細め、三蔵は空を仰いだ。 今日は悟空の誕生日なのだ。 ふとそのことに気付き、ふらりと街へ出てきた。 出かける時、運悪く八戒に「何をしに行くんですか?」と問われたが、 きっとあの読めない笑顔の下で、大方予想がついているのだろう。 そういえば、台所では甘い匂いがしていたな…と今更ながらに思い出す。 つまり、これでケーキは却下となったワケだ。 「チッ…」 軽く舌打ちをし、三蔵は考える。 今まで誕生日なんて物を気にしたことはない。 だから、何を贈ればいいのか見当もつかないのだ。 並んでいる店を見ながら、歩く。 この間、八戒に聞いたときに言われた言葉を三蔵は頭の中で反芻する。 「その人が喜ぶものを贈ればいいんですよ。」 悟空の喜びそうな物… どうしても、食べ物しか頭に浮かんでこない。 「…面倒クセェ…」 目に入った菓子屋を見れば、女子供で溢れている。 …悟浄を連れてくるべきだったな… そう後悔しながらも、三蔵は菓子屋へと足を踏み入れたのだった。 小さな菓子の詰め合わせを手にしながら、三蔵は宿への道を歩いていた。 女どもの視線の中、菓子を買うのははっきり言ってかなりいやだった。 ちらっちらっと視線が投げられ、ひそひそとなにやら話す声。 「もう2度と行かねぇ…」 独り呟いた三蔵の目に、1件の花屋がとまる。 実際目にとまったのは、花屋自体ではなく、そこに飾られた向日葵だった。 太陽のように明るく咲く花は、本来ならこの季節の花ではない。 しかし、それは悟空の明るさを思わせた。 三蔵は少しの間考え、花屋の中へと足を運んだ。 宿に戻れば、料理のいい匂いが立ち込めていた。 自分が泊まっている部屋へと戻る。 机の上に菓子と花を置き、読みかけだった新聞を手に取った。 ちょうどその時、ドアがノックされる。 「三蔵、開けてもいいか?」 悟空だ。 「開いている。」 短く答え、中に入ってもいいと伝える。 かちゃっと扉が開いて、満面笑顔の悟空が飛び込んできた。 「なぁなぁ、今日は八戒がご馳走作ってくれてるんだって♪」 開口一番がそれである。 「俺さ、今日、誕生日じゃん? 自分でも忘れてたんだけどさっ。」 息をつく間もなく、一気にまくし立てる。 「だから、八戒がご馳走作ってくれるんだって♪ 楽しみ〜vv」 全身で嬉しいと表現している悟空に、なんとなく三蔵は腹が立った。 無言で新聞へと視線を落とす。 しかし、集中できず文字を追うだけになってしまう。 「しかも、俺の好きなものばっかみたいなんだ。」 「…」 「でも、ちゃんと見たわけじゃねぇから、わかんねぇけど…。」 「…」 「…三蔵?」 「…」 「…ゴメン、俺、うるさかった?」 そう言って覗き込んでくる瞳は、どこかしら不安で揺れていた。 はぁ…と大きく息を一つ吐きだした。 自分でも、どうかしていると思いながら 「いつものことだ。 気にならん。」 と嘘をついた。 本当にどうかしている…と、三蔵は自嘲にも似た笑みをふと浮かべた。 「あ。」 悟空の発した声に、顔をあげた。 「なぁ…三蔵。」 悟空の視線が留まっているのは、机の上。 黄色く大きな明るい向日葵と、綺麗にラッピングされた菓子の詰め合わせ。 「…もしかして、俺、に…?」 「…誕生日なんだろう?」 他に誰のために買うんだ…というニュアンスを含ませ、言った。 「…サンキュ…」 不本意ながら、その時浮かべた悟空の微笑みに、三蔵は目を奪われた。 それほど綺麗に微笑ったのだ、悟空は。 少し照れたような…でも、嬉しいということはまったく隠さない笑顔。 見ている三蔵の方が照れてしまい、ふっと視線を逸らした。 「ちょー嬉しいかも。」 マジでサンキュな!と言って部屋を出ていこうとした悟空の腕を柔らかく掴み、 「ハッピーバースデー…悟空。」 と抱き寄せ、その頬に唇を寄せたのだった。 |
■ 夏樹葉の戯言 ■ せっかく悟空の誕生日ですしね… ンなワケで、甘い感じの三空を書いてみました♪ |
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