パラパラと雨粒が宿の窓を叩いた。
雨の日はなんとなくだけど、八戒の元気がない。
俺は雨が嫌いじゃない。
なんか、楽しいじゃん?
小さな水の雫が空から落ちてきて、音楽を奏でる。
その音は優しいから、好き。
自然の音。
優しい音。
「なぁなぁ、八戒。」
ぼー…っとしている八戒に、声をかける。
俺の声に反応して、碧の瞳が、驚いたように少し大きく開かれた。
「…どうしたんですか、悟空?」
そう言って微笑む八戒は、いつもと変わった風には見えない。
だけど…だけど、どっか違うって、俺は知ってるんだ。
「八戒ってさ、雨、嫌い?」
綺麗な碧色の瞳を覗き込むようにして、尋ねた。
「…え?」
「だってさ、いっつも八戒って雨の日、元気ないじゃん?」
八戒から離れて、窓のほうに近寄る。
「俺は、雨も好きだよ。 なんか、楽しいじゃん。」
くるりと振り返って、にっこりと微笑ってみせた。
「空から水が降ってきてさ、音楽を奏でてるんだ。
それって、不思議じゃねぇ?」
そう言って、窓のほうに目をやる。
「それにさ…こんな虹が見られるんだって、雨の後くらいじゃん?」
いつの間にやら雨はやんで、空には七色の虹がかかっていた。
「そう、ですね。」
手招きに応じて、八戒も隣で目を細めている。
「八戒、辛いこといっぱいあったと思うんだ。
だけどさ、やっぱ、楽しい方がいいじゃん?
雨もいやかもしんないけど、ずっと雨ってことないしさ。」
だから…と俺は続けて、一息に言った。
「だからさ、八戒も…元気出して欲しいなー…って。」
上目遣いに見上げてみれば、こっちを見ている碧の瞳と出会う。
その瞳には優しく柔らかい光をたたえて。
「…ありがとうございます、悟空。」
そう言って微笑んだ八戒は、いつもと変わらなかった。
「…うんっ♪ なぁなぁ、三蔵たちも誘って、外に行かねぇ?」
雨で洗われた空気はきっと新鮮で、生きてる匂いがするはず。
返事を待たず、俺は八戒の手を取って三蔵たちのいる部屋へと向かった。
|