桜の時期もやや過ぎて。
緑がだんだん色濃くなってきた。
初夏とはまだいえない。
暖かな陽射しに揺れる若葉を見ながら、手の中のものを放り投げた。
5cm四方程度の小さな箱。
綺麗にラッピングされたその箱を道々放り投げながら、朝帰りの岐路へとついた。


〜精彩豪G節〜


「たでーま。」
そう言ってみたが反応はない。
普段なら返ってくる八戒の声。
どうせ買いだしか何かに出かけているんだろう。
そう思った俺は、特に気にもせず居間へと向かった。
そこには思ったとおり、朝食の用意と「買い物に行ってきます」という書き置きが
残されていた。
ありがたく用意された朝食に箸をつける。
あらかた食べ終え、食後の一服に火をつけたところで八戒が帰ってきた。
「ただいま。」
「おぅ、おけーり。」
「あぁ、帰っていたんですか?」
「ん、朝飯サンキュ。」
「いいえ。」
食べ終えた食器をシンクへと運ぶ八戒に
「あ、土産。」
小さな箱を放った。
放物線を描いて落ちたそれは、ちょこんと八戒の手の中に収まった。
「なんです?」
「いーから、開けてみろよ。」
訝しげな表情をしながら、ラッピングを解いてゆく。
小さな箱の中から顔を出したのは…ごく細いシンプルな銀の指輪。
「悟浄。」
途端に八戒の声が硬質化した。
「どういうことです、これは?」
「は?!」
思ってもいなかった反応に、思わず間抜けな声が出た。
「あげる人、間違ってるんじゃないですか?」
あぁ…と納得した。
多分八戒は、俺が女へと買ったものだと思っているのだろう。
俺は、短くなったタバコを灰皿で揉み消しながら
「イイから。 嵌めてみろって。」
苦笑まじりに促した。
しぶしぶ…といった感じで八戒が指輪に指を通す。
「あ、右手の薬指な。」
左の中指に嵌めようとした八戒を見て、俺は言った。
八戒は怪訝な顔をして、右手の薬指へと嵌める先を換える。
未だに微妙な機嫌の悪さを隠さない八戒の手を取る。
「あぁ、ぴったりだな♪」
白くしなやかな指に、その指輪は不思議なほど綺麗に映えた。
「あの…悟浄…」
「寝てる間に測ったからちょっと心配だったんだけどな。」
「あの…これ…僕、に?」
「俺が猿や坊主に買うわけないっしょ。それとも誰か、他のやつにくれてやれって?」
からかうように瞳を覗き込んだ。
戸惑ったような瞳が優しく緩んでゆく。


「ねぇ、悟浄?」
「あ?」
しばらくシンクで洗い物をしていた八戒が、お茶を持ってこっちにやってきた。
「でも、なんで右手の薬指なんですか?」
どうやらずっとそのコトを考えていたらしい。
「だって、お前、左の薬指だとしたらしてくれたワケ?」
「いいえ。」
間髪いれずに返される答えに、少し苦笑した。
「だからだよ。」
「でも、それだったら中指だって…」
右手に嵌められた指輪を光にかざしながら、八戒が言う。
「ん〜…まぁ、そーなんだけど…」
八戒が入れてくれた茶をすすりながら、俺は続けた。
「確か左の薬指って、婚約指輪だろ? 右が結婚指輪だって…
 街でオネーサンたちが話してたのを聞いたわけよ。」
ちょっと照れくさかったので、そっぽを向きながら…だったけど。
「そーゆーワケ。 OK?」
とりあえず、言いたいことは言っちまったし…と八戒のほうに向けば、
当の本人は目元をほんのり紅く染めて俯いてしまっていた。
「…あの…大切にしますね、悟浄。」
小声でありがとうと囁くように言って微笑った八戒に、俺は満足した。
でも、多分八戒は知らない。
そのリングの裏に二つの石が嵌めこまれているコトを。
一つは碧の翡翠、もう一つは…
いつか気付くだろうか?
「どうかしました?」
ふと笑んでしまった俺に、不思議そうに八戒が訊ねる。
「いや、何でもねぇよン♪」
なんだかそのときを想像しちまって。
顔が緩んでしまうのを、俺はとめることができなかった。




夏樹葉のあとがき…もとい、戯言。
   はぁ〜…バカップルな悟浄さんと八戒さん。
   ふと窓の外を見たら、緑がきれいだったんですよ。
   それで、この季節は八戒さんに似合いそうだなぁ…なんて。
   緑が綺麗→翡翠とかエメラルド→指輪。
   …なんて単純なんだぁ〜!!!
   最初考えていたお話とは全然方向性が違ってしまいました…
   はぁ…ま、いっか。
   つか、その前に題名…どうなんでしょ?(汗)





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