ANGST



いつも、この時期になるとこうだ…。
前に食べ物を口にしたのはいつのことだったか…
それも今となっては思い出せない。
空腹も…そして、喉の乾きも感じずにいる俺を心配そうにのぞきこむ2つの瞳。
金色に輝く、純粋な幼い瞳。

「…どうした、悟空。」
のぞきこんでいる本人に問いかける。
俺が声を発したことにほっとした様子で、その瞳が遠ざかっていく。
「ん…」
なんとなく照れくさそうに、しかし安堵したことは隠さない表情。
「だって、三蔵動かないから…。 それに、何にも食べてねぇし…」
その言葉にはありありと心配が隠されていた。
「…何言ってんだ、バカ猿? 死んでるとでも思ったのか?」
だるい体を起こす。
邪魔な髪の毛を無造作にかきあげる。
それだけでも、さすがに力の入らないこの体には辛い。
ベッドのわきに置いておいたタバコに手を伸ばす。
「…ラスワンか。」
悟浄にでも買いに行かるか…などと考えつつ、箱をくしゃっと握りつぶす。
火をつけようと思いジッポを探すが…ない。
「…悟空。」
後ろ手に明らかに何か隠しているバカ猿に
「火。」
と一言短く要求する。
「え?!」
視線が宙を泳ぐ。 動揺すらも隠せない、純粋な、コドモ。
追い討ちをかけるように、もう一度
「火、返しやがれ。」
と要求する。
「…
やだ。」
小さく聞こえてきた声は、それでもしっかりと悟空の意思を含み、俺に伝えた。
「…なに言ってやがる、このバ…」
「だって三蔵、そんなに具合悪そうじゃんかっ!!」
俺の言葉を途中でさえぎり、がばっと悟空は顔を上げる。
泣き出しそうな瞳の中にあるものは、純粋な…心配だけ。
「だってさ…だって、三蔵、全然食わねぇし、水も飲まねぇし…」
堰を切ったかのように溢れ出す言葉。
「俺なんかが言ったって、聞いてくれないかもだけど…でも、俺、心配で…」
段々と小さく消えてゆく。

「…行くぞ。」
気を抜けばふらつく体をベッドから立ち上がらせ、咥えタバコのまま言った。
「…え?」
状況が把握できず、ぽかんと間抜けた面の悟空に言葉を放る。
「そろそろ夕飯の時間だろう。 八戒が待ってる。」
その言葉の意味を知ると、ぱっと輝くような笑顔が悟空の顔に浮かんだ。
「うん、そうだよな!」
大きく頷くと「今日は何かなぁ〜?」などと、早くも献立に思いを馳せている。
「…悟空。」
「ん? なになに?」
声をかけるとくるりとこっちを向いた。
「…いいかげん、ジッポ返しやがれ。」
すぱぁぁぁーんっっ!!!
「いってー!!」

…いつもどおりの情景。
これでイイのかもしれない。
まだ、俺は弱い。
あの人の影に引きずられるほどに。
「オラ、さっさと行くぞ。」
投げ渡されたジッポでタバコに火をつけ、俺たちは八戒と悟浄の待つ食堂へと向かった。






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